「最近、なんだか太ってきた気がする」「前より元気がなくて、寝てばかりいる」——多くの飼い主さんは、これを単なる加齢や運動不足のせいだと考えがちです。しかし、こうした変化の裏には「甲状腺機能低下症」という病気が隠れていることがあります。この記事では、甲状腺機能低下症の症状の特徴と、単なる肥満との見分け方をまとめて紹介します。
甲状腺機能低下症とはどんな病気か


甲状腺は、体の代謝をコントロールするホルモンを分泌する臓器です。甲状腺機能低下症は、このホルモンの分泌量が不足することで、全身の代謝が落ちてしまう病気です。犬の甲状腺機能低下症の多くは、免疫の異常によって甲状腺自体が壊れてしまうことや、原因のわからない甲状腺の萎縮が関係しているとされています。5歳以上の中高齢犬での発症が多いものの、幅広い年齢で起こりうる病気です。
主な症状:体重増加・皮膚トラブル・元気消失


甲状腺機能低下症の症状は多岐にわたります。代謝が落ちることで、食事量が変わらなくても体重が増加しやすくなり、運動を嫌がる、疲れやすい、寒がりになるといった様子が見られます。皮膚面では、毛が薄くなる、特に尾や胴体の毛が抜けやすい、皮膚がベタつく、フケが増える、皮膚が黒っぽく色素沈着するといった変化が起こりやすく、皮膚病や外耳炎を繰り返し、なかなか治らないというケースもあります。皮膚や被毛の悩み全般については犬の皮膚が乾燥する原因と保湿ケア方法もあわせて参考にしてください。
「ただ太っただけ」との違い:見分けるポイント


甲状腺機能低下症でもっとも見逃されやすいのが、「単なる肥満」「単なる老化」と思い込まれてしまうことです。体重の増減だけを見ていると気づきにくいため、自宅での体型チェックには犬の肥満度を自宅でチェックする方法も参考にしつつ、体重の変化以外のサインにも注目することが見分けるポイントになります。甲状腺機能低下症に特徴的なサインとして、上まぶたや口まわりの皮膚が分厚くなり、どこか悲しげな表情に見える「悲劇様顔貌(ひげきようがんぼう)」と呼ばれる独特の顔つきが挙げられます。単なる体重増加だけでなく、こうした顔つきの変化や、繰り返す皮膚トラブル、明らかな元気消失が同時に見られる場合は、単なる肥満ではなく甲状腺機能低下症の可能性を考えて、動物病院で血液検査を受けることをおすすめします。
なりやすい犬種


甲状腺機能低下症は、トイプードル、柴犬、ミニチュアシュナウザー、ビーグル、シェットランドシープドッグ、アメリカンコッカースパニエルなどで比較的発症しやすいとされています。これらの犬種を飼っている場合は、中高齢に差し掛かったタイミングで、体重や皮膚の変化に少し注意を払っておくとよいでしょう。柴犬やトイプードルの性格・飼い方については柴犬のしつけが難しいと言われる理由やトイプードルの性格と飼い方のポイントもあわせてご覧ください。
診断と治療:生涯管理だが、きちんとコントロールできる


甲状腺機能低下症は、症状だけで判断するのが難しい病気で、確定診断には血液検査で甲状腺ホルモン(サイロキシン、T4)の値を調べる必要があります。治療は、不足しているホルモンを薬で補う方法が基本で、多くの場合、生涯にわたる投薬が必要になります。治療を始めた直後は、適切な投与量を決めるために1〜2週間おきの通院が必要なこともありますが、状態が安定すれば通院間隔は1〜2か月に1回程度に落ち着き、多くの犬は投薬を続けながら健康な犬と変わらない生活を送れるようになります。
甲状腺機能低下症で見られる、意外な症状


体重増加や皮膚トラブルのほかにも、甲状腺ホルモンの不足はさまざまな形で現れます。代表的なのが、寒がりになって暖かい場所から動かない、心拍数が落ちて脈がゆっくりになる、貧血気味になる、といった代謝低下によるもの。行動面では、ぼんやりして反応が鈍い、活動性が落ちて認知症のように見える、まれに攻撃性や不安が強くなる、といった変化が報告されています。また、神経に影響して、顔の筋肉が動きにくくなる顔面神経麻痺、首を傾ける、ふらつく、といった症状が出ることもあります。メス犬では発情周期が乱れる、オス犬では精子の異常が見られることもあります。こうした「一見つながりがなさそうな症状」が同時にいくつか見られたら、甲状腺の検査を相談する価値があります。
治療を始めてからの経過と、飼い主が気をつけること


甲状腺ホルモン剤を飲み始めると、多くの犬は1〜2週間で元気や活動性が戻り、1〜2か月で体重が減り始め、皮膚や被毛は3〜6か月かけてゆっくり改善していきます。薬は1日1〜2回、できるだけ毎日同じ時間に飲ませます。食事の前後で吸収率が変わるため、獣医師から指示されたタイミングを守ってください。投与量が多すぎると、逆に落ち着きがない、水をたくさん飲む、痩せてくるといった「甲状腺機能亢進」の症状が出ることがあるので、定期的な血液検査で量を調整します。状態が安定したあとも、半年〜1年に1回は検査を受け、薬を勝手にやめないことが大切です。皮膚の改善が見られない場合は、アレルギーなど別の皮膚病を併発していることもあるため、あわせて相談しましょう。
よくある質問


Q. 治療費はどれくらいかかりますか?
A. 甲状腺ホルモン剤は比較的安価で、体重にもよりますが月に数千円程度が目安です。それに加えて、治療開始時は数週間おき、安定後は半年〜1年に1回の血液検査費用(数千円〜1万円程度)がかかります。生涯続く治療ですが、他の慢性疾患と比べると負担は抑えやすい病気です。
Q. 甲状腺の検査はどんな検査ですか?
A. 血液検査で、甲状腺ホルモン(T4、遊離T4)と、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の値を調べます。ただし、他の病気やステロイドなどの薬の影響でT4が低く出ることがあるため、数値だけで即断せず、症状と合わせて総合的に判断します。健康診断の血液検査に甲状腺の項目を追加できることが多いので、中高齢の該当犬種では相談してみてください。
Q. 予防する方法はありますか?
A. 免疫の異常や甲状腺の萎縮が原因のため、確実な予防法はありません。できることは、なりやすい犬種を飼っている場合に中高齢期から定期的に検査を受け、「太ってきた」「元気がない」「皮膚が悪い」を歳のせいと決めつけず早めに相談することです。早期に治療を始めるほど、皮膚や毛の回復も早くなります。
まとめ


犬の甲状腺機能低下症は、体重増加や元気消失、皮膚トラブルといった症状が単なる肥満や老化と混同されやすい病気です。悲劇様顔貌のような独特の顔つきの変化や、繰り返す皮膚トラブルが同時に見られる場合は、自己判断せず血液検査で確認してもらいましょう。生涯投薬が必要になることが多い病気ですが、適切に管理すれば、これまでと変わらない生活を送ることができます。
この記事の執筆者
ルーク隊長(犬のまとめ 運営者)
子どもの頃から20年以上、犬との暮らしを続けている犬好き。身内にペットトリマー・ドッグトレーナーがおり、日常的に多くの犬と接する環境にある。


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