今日は面白い日本のことわざ、「夫婦げんかは犬も食わぬ」について考えてみましょう。この言葉が伝えるのは、夫婦同士のもめごとが特別で、それに他の人が首を突っ込む必要はないということ。なぜなのか、犬の視点からも見てみましょう。
・何故、夫婦喧嘩は犬も食わないが生まれた?
・同じような言葉とエピソード
「夫婦喧嘩は犬も食わない」の意味|読み方と使い方・例文
「夫婦喧嘩は犬も食わない」は、「ふうふげんかはいぬもくわない」と読みます。小学館の『デジタル大辞泉』では、夫婦げんかはじきに仲直りするので、他人が仲裁に入るのは愚かなことだというたとえ、と説明されています。『ことわざを知る辞典』にも、夫婦のいさかいは一時的なことが多く、すぐに仲直りするため、他人が口出しするものではないという趣旨の解説があります。
つまり、夫婦げんかは「放っておけばそのうち収まる、当人同士の問題」だから、まわりは首を突っ込まなくていい、という意味です。「犬も食わぬ」と言うこともあり、どちらの形も使われます。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」の使い方と例文
次のような場面で使われることが多い言い回しです。
- 周りが心配しているとき:「あの二人、さっき言い合っていたけれど、夫婦喧嘩は犬も食わないというし、そっとしておこう」
- すぐに仲直りしたとき:「昨日あんなに怒っていたのに、今日はもう一緒に出かけているよ。夫婦喧嘩は犬も食わないね」
- 自分たちのことを照れ隠しで言うとき:「お騒がせしました。夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますから、気にしないでください」
使うときの注意点
軽いやりとりに使う分には問題ありませんが、気をつけたい点もあります。ことわざ用例サイトのkotowaza.jepang.orgでは、当事者と親しい間柄で使うと、相手の気持ちを軽く扱っているように聞こえるおそれがあると注意されています。また、家庭内の暴力や虐待のような深刻な問題には使うべきではないとも書かれています。
離婚・カップルカウンセラーの岡野あつこさんによるAll Aboutの記事でも、このことわざが成り立つのは、「これだけは言ってはいけない」というルールを守り、最終的に仲直りできると見込める場合だと述べられています。ルールを無視して激しく傷つけ合えば、しこりが残ることもあるそうです。「犬も食わないから大丈夫」と決めつけず、状況を見て使いたい言葉です。
夫婦喧嘩は犬も食わないが何故生まれた?


夫婦喧嘩は、犬でさえ無視するほどのもの。夫婦同士のもめごとはよくあるけれど、ほとんどがすぐに仲直りし、他の人が仲を裁くべきではないんです。それに、仲裁するのはちょっとばかげていることなんですね。
なぜ犬も食わぬのか、その理由は夫婦喧嘩が大抵小さなことから起こり、しかもすぐに仲直りすることがほとんどだから。夫婦喧嘩は、犬でさえもその喧嘩には興味がないところから、「犬も食わぬ」という表現が生まれたのです。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」の由来と出典|諸説あります
由来については、辞典の説明を読むと次のように整理できます。ただし、言葉の成り立ちには諸説あります。
- 犬は何でも食べるとされていたから:『ことわざを知る辞典』(コトバンク掲載)によると、古くは「頼めば犬も糞を食わぬ」と言っていたそうです。犬は何でも食べるものと考えられていたため、その犬さえ口にしないものは「よほどまずいもの」「誰も相手にしないもの」を指すようになった、と説明されています。
- 雑食の犬でも見向きしないほどつまらないから:実用日本語表現辞典(Weblio)の「犬も食わない」の項では、誰も望まず相手にもしないもの、雑食の犬でさえ欲しがらないほど程度の低いもの、という意味合いとされています。
出典についても触れておきます。『精選版 日本国語大辞典』によると、洒落本『狐竇這入(きつねのすあなへいる)』(1802年)に用例があり、これが初出とされています。近代では、坂口安吾の『オモチャ箱』(1947年)にも用例が見られるそうです。江戸時代から使われてきた、歴史のあるいい回しなんですね。
なお、犬が人間の喧嘩を嫌って食べない、という「犬の気持ち」に由来する説明は、今回調べた辞典類では見つかりませんでした。犬が登場するのはあくまで「何でも食べる動物」の代表だから、というのが辞典の見方のようです。この記事の後半では、実際に犬は人の喧嘩をどう感じているのかを、研究とあわせて紹介します。
同じような言葉


ちなみに、似たようなことわざに「夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まる/夫婦喧嘩と南風は夜に入って治まる」というものもあるんだ。これは、夫婦喧嘩も時間がたてば治まるって教えてくれているよ。
昔のことわざには、「頼めば犬も糞を食わぬ」という言葉があります。これは、犬が何でも食べるけれども、糞だけは避けるという逆説的な表現。同じく、「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と言われると、それは本当に嫌なものや、誰も相手にしないもののことを指しているんです。
夫婦喧嘩は犬も食わないの類義語・似た表現と英語での言い方
類義語・似たことわざ
厳密に同じ意味の言葉は多くありませんが、『日本語使いさばき辞典』(JLogosに掲載)には、類句として「夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まる」が挙げられています。西風が夜になると静まるように、夫婦げんかも時間がたてば自然に収まる、という意味合いです。
- 夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まる:夫婦げんかも時間とともに自然に収まる(類句)
- 犬も食わぬ:夫婦げんかに限らず、誰からも相手にされない、見向きもされないものを指す言い方
- 喧嘩するほど仲がいい:遠慮なく言い合えるほど親しい、という見方の表現。「犬も食わない」が「口出し無用」と言うのに対し、こちらは「喧嘩できるのは仲の良さの表れ」という視点です
「対義語」と言い切れるものは見つかりませんでしたが、上のように「喧嘩を放っておく」「喧嘩を前向きに見る」と、少しずつ視点の違う言い方がある、と覚えておくと使い分けやすくなります。
英語ではどう言う?
直訳としては、”Even a dog will not eat a marital quarrel.” と紹介されています(kotowaza.jepang.org)。ただし、これは日本語の意味を説明するための訳で、英語圏でそのまま使われる決まり文句とは限りません。意味を伝えるなら、次のような言い方が自然です。
- Don’t get involved in other people’s marital quarrels.(他人の夫婦げんかには関わらない方がいい)
- They’ll make up soon enough.(どうせすぐに仲直りするよ)
また、『ことわざを知る辞典』には、この項目の英語として “The quarrel of lovers is the renewal of love.”(恋人同士のいさかいは恋の甦り)が挙げられています。「喧嘩のあとに愛が深まる」というニュアンスが強く、「口出し無用」という日本語とは少し趣が違いますが、「いさかいも関係の一部」という見方は共通しています。
犬は本当に夫婦喧嘩を察知しているの?
「犬も食わぬ」はことわざとしての表現ですが、犬が人の緊張やストレスを実際に感じ取っていることは、研究でも確かめられています。飼い主と犬の心拍変動を同時に測定した研究では、飼い主にストレスがかかっている時、犬にも同じような自律神経の変化が見られたと報告されています。
また、スウェーデンの大学の研究では、飼い主と犬の毛に含まれるストレスホルモン(コルチゾール)の濃度を調べたところ、飼い主の長期的なストレスレベルが高いほど、犬のストレスレベルも高くなるという相関関係が見つかっています。犬は表情や声のトーン、仕草から人の感情を読み取っているとも考えられており、家の中で言い争う声が続くと、犬が落ち着かなくなったり、隠れたり、震えたりすることがあるのも自然な反応といえます。
研究で分かっていること|犬は飼い主のストレスに引きずられる?
犬が人のストレスを感じ取る可能性については、いくつかの研究が出ています。ここでは、内容を確認できた2つを紹介します。
- 麻布大学の研究(2019年):科学技術振興機構(JST)のサイエンスポータルによると、菊水健史教授らのグループが、飼い主と犬34ペアを対象に、双方に心拍計をつけて実験しました。飼い主に暗算などの心的ストレスがかかる課題をしてもらい、心拍変動を解析したところ、詳しく解析した13ペアのうち約半数で、飼い主と犬の心拍変動が似る傾向が見られたそうです。飼育期間が長いほど同期しやすい傾向もあったとされています。
- リンショーピング大学の研究(スウェーデン、2019年):Scientific Reportsに掲載された研究で、ボーダーコリー25頭とシェットランド・シープドッグ33頭、その飼い主の毛に含まれるコルチゾール(ストレスホルモン)を調べたところ、数か月単位のストレスレベルが飼い主と犬で似ていたと報告されています。研究者たちは「犬が飼い主のストレスを映している可能性」を示しつつ、原因を断定するにはさらなる研究が必要としています。
どちらの研究も、飼い主の長期的なストレスや課題中のストレスを調べたもので、夫婦喧嘩そのものを検証したものではありません。対象も限られた頭数や犬種です。そのため「喧嘩をすると犬が必ずストレスを受ける」とは言い切れませんが、緊張した空気が犬に伝わっている可能性は十分に考えられます。
喧嘩のとき、犬に見られやすいストレスのサイン
Vet Karlsruhe(ドイツの動物病院)の解説やAll Aboutの犬ガイドの解説によると、犬は緊張やストレスを感じると、次のようなサインを見せることがあります。喧嘩のときだけでなく、日常の様子を見るヒントにもなります。
- あくびを繰り返す、唇をなめる
- 目をそらす、そっぽを向く、背中を向ける
- 耳を後ろに倒す、しっぽを下げる・巻く
- 固まる、その場から離れようとする、隠れる
- 落ち着きなく歩き回る、飼い主の近くを離れない
たとえば、あくびにも緊張を表すものがあります。くわしくは犬のあくびは眠いだけじゃない|緊張を示す「カーミングシグナル」で解説しています。サインが一度だけなら心配しすぎる必要はありませんが、喧嘩のたびに続いたり、普段の食欲や元気にも影響したりするようなら、動物病院やドッグトレーナーに相談してみましょう。
犬のために、夫婦喧嘩のときにできること
- 声を荒げそうになったら、いったん深呼吸して声のトーンを下げる
- 言い合いが続きそうなときは、犬を別の部屋や落ち着ける場所で休ませる(ケージやベッドなど、安心できる場所があると◎)
- 喧嘩のあとは、落ち着いてから穏やかな声で犬に声をかけ、いつもの散歩やごはんのリズムを保つ
- 喧嘩以外にも、留守番中の不安など、ほかのストレス要因がないかを見直す。多頭飼いなら犬同士の喧嘩の見分け方も参考になります
- こうした様子が長く続くときは、獣医師やドッグトレーナーに相談する
ことわざのとおり、夫婦喧嘩は「すぐに収まる」ものであれば、犬もそれほど気にしないのかもしれません。ただ、犬は私たちが思っている以上に家の空気を感じ取っている可能性があります。仲直りのあとに、ほっとした顔で犬と過ごせれば、それが一番ですね。
まとめ


最後に、英語のことわざ「The quarrel of lovers is the renewal of love.(恋人同士のいさかいは恋の甦り)」。これは、恋人同士のけんかが愛を再び芽生えさせるきっかけになるという素敵な言葉です。笑いと愛を大切にし、日常の小さな幸せを共有していきましょう。楽しい日常をお過ごしください!
夫婦喧嘩は犬も食わぬ、とは、犬たちが穏やかで安定した環境を好み、人間の複雑な感情や関係にはあまり興味を示さないという視点からの表現かもしれません。犬たちが主人たちの幸せな時間を共有し、笑顔で過ごすことを望む一方で、喧嘩や緊張が漂う場面には近づきたくないというのが彼らの本能なのかもしれませんね。
よくある質問
Q. 「夫婦喧嘩は犬も食わない」の由来は?
A. 昔から「犬は何でも食べるが、さすがに糞は食べない」ということわざがあり、そこから転じて「犬も食わぬ=誰も相手にしないもの」という意味が生まれました。夫婦喧嘩は些細な原因からすぐに起こり、たいていすぐ仲直りするため、他人が口を出すだけ野暮だ、という教えが込められています。
Q. 犬の前で夫婦喧嘩をするのはよくない?
A. 絶対にダメというわけではありませんが、声を荒げる喧嘩が続くと犬にストレスがかかる可能性があります。気づいたら一旦落ち着いて、犬にも穏やかな声で話しかけてあげると安心しやすいです。
Q. 似たような意味のことわざはある?
A. 「夫婦喧嘩と南風(西風)は夜に入っておさまる」ということわざがあり、夫婦喧嘩も時間が経てば自然におさまる、という同じ趣旨を伝えています。
Q. 「夫婦喧嘩は犬も食わない」と「犬も食わぬ」はどちらが正しいですか?
A. どちらも使われます。辞典の見出しには「夫婦喧嘩は犬も食わない」(デジタル大辞泉)と「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」(ことわざを知る辞典)の両方があり、語尾の表記が違うだけです。意味は同じなので、文章の雰囲気に合わせて選んで大丈夫です。
Q. 夫婦喧嘩は犬も食わないを英語で言うと?
A. 直訳は “Even a dog will not eat a marital quarrel.” と紹介されています。ただ、英語圏で決まって使われる表現とは限らないため、意味を伝えるなら “Don’t get involved in other people’s marital quarrels.”(他人の夫婦げんかには関わらない方がいい)のように言い換えると自然です。
身内のドッグトレーナーに聞いたポイント:大きな声が続くと、犬が飼い主の間を行ったり来たりして落ち着かない様子を見せることがあると聞きます。これは仲裁しようとしているというより、緊張した空気そのものに反応している可能性が高いそうです。犬が明らかにそわそわしていたら、一旦別の部屋で休ませてあげるのも一つの方法とのことでした。
この記事の執筆者
ルーク隊長(犬のまとめ 運営者)
子どもの頃から20年以上、犬との暮らしを続けている犬好き。身内にペットトリマー・ドッグトレーナーがおり、日常的に多くの犬と接する環境にある。


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